肝胆膵
肝臓がん(肝細胞癌)
年齢別にみた肝臓がんの罹患率は、男性では45歳、女性では55歳から増加し始め、70歳代に横ばいとなります。年齢別にみた死亡率も同様な傾向にあります。罹患率、死亡率は男性の方が高く、女性の約2~3倍です。(がん情報サービスganjoho.jp より引用)
外科的切除(開腹手術、腹腔鏡下手術)、ラジオ波焼灼術(図1)、動脈塞栓療法、動注化学療法、全身化学療法の中から、肝臓癌治療ガイドラインに準拠して患者さんの病状にあった最適と思われる方法を選択して治療にあたります。 近年では腹腔鏡下手術も導入され、低浸襲な外科的切除も可能になってきました。しかし、致命的な合併症が報告されており、当センターでは十分に治療方法について患者さんとそのご家族に相談した上で、納得していただいた場合に限り、腹腔鏡下手術を行うようにしております。当センターでは、保険収載されている肝部分切除や外側区域切除は、低侵襲な腹腔鏡下手術を行い、亜区域切除以上は開腹手術を基本にしています。
ウイルス性肝炎、肝硬変を背景に発症する肝臓がんの場合は、一度治療しても、他の肝臓の部位から新たに発症することが少なくありません。複数回の治療が必要になることも多く、治療方針の判断が難しい場合もありますが、経験のある消化器外科、消化器内科で充分に検討した上で、治療にあたっています。
状況によっては、ウイルス性肝炎の抗ウイルス療法を行うこともあります。



図1では当センターでの肝細胞がんに対するラジオ波焼灼術の超音波画像をお示しします。横隔膜下直下で視野確保の困難な病変に対しては、胸腔内へ人工胸水を注入することで、良好な視野を確保できます。動画にお示ししますとおり、体表より穿刺してラジオ波焼灼術を行います。
転移性肝がん
大腸がん、胃がん、膵臓がんなどの消化器がんは、血液の流れに乗って、時として肝臓に転移します(進行大腸がんの場合、その20〜30%に肝転移が起こると言われています)。多くの患者さんでは抗癌剤治療や外科的切除などが適応とされ、当センターでもガイドラインに準拠した標準的な方法を第一選択として治療にとりくんでいます。特に大腸がんの肝転移では、腫瘍の大きさ、個数、場所によって外科的切除が可能な場合には、手術によって良好な生存率が得られることが示されています。
一方、肝転移の増大により肝機能障害や黄疸が出現するまで状態が悪化すると、多くの場合、緩和治療を勧められることになります。われわれは、こうした患者さんの中にも治療の対象になる方がおられることを経験してきました。まず、比較的副作用の少ない肝動注化学療法を行い、肝機能が改善した時点で全身化学療法や外科的切除などに移行する方法です(写真④)。
すべての患者さんで満足な結果が得られるわけではありませんし、このような「あきらめないがん治療」はむしろ少数派かもしれません。しかし、患者さんと寄り添う時間を少しでも長くしたいとお考えの方は、当センターへ一度、ご相談下さい。

写真④は当センターでのS状結腸がんの多発肝転移症例に対する肝動注化学療法奏効例の腹部造影CTをお示しします。75歳の女性で、初診時腫瘍マーカーはCEA 7000ng/ml(正常値0~5.0ng/ml), CA19-9 11600U/ml(正常値0~37U/ml)と著明に高値を示しており、左の写真のように腫瘍は肝臓の両葉を占めておりましたが、動注化学療法をはじめて約半年で腫瘍マーカーはCEA 60ng/ml, CA19-9 76U/mlまで改善され、右の写真のように腹水も減少し、転移巣も不明瞭になりました。
胆道悪性疾患
わが国の2013年の胆のう・胆管がん死亡数は男性約8,900人および女性約9,300人で、それぞれがん死亡全体の4%および6%を占めます。2010年の胆のう・胆管がんの罹患率(全国推計値)は、男性約11,300例および女性約11,300例で、それぞれがん罹患全体の2%および3%を占めます。(がん情報サービスganjoho.jp より引用)
腫瘍の部位によって手術方法が大きく異なります。64列マルチスライスCTやMRI、内視鏡的胆道造影、超音波内視鏡などによる画像診断をもとに、消化器外科、消化器内科で充分な検討を行い、胆道癌診療ガイドラインに準拠して外科的治療、化学療法、放射線治療、動注化学療法など集学的治療を行います。胆管がんでは、黄疸を伴うことがあり、治療に先立ち、黄疸を解除することが必要になる場合があります。黄疸を解除するには、内視鏡的な方法や、経皮経肝的な方法があり、適宜行っていきます。
外科的切除が可能な場合は、術中病理診断に基づき、胆道切除だけでなく肝切除や膵頭十二指腸切除など、腫瘍の占拠部位に応じた手術を行います。
膵悪性疾患
年齢別にみた膵臓がんの罹患率は60歳ごろから増加して、高齢になるほど高くなります。年齢調整死亡率は、男性の方が高く、女性の約1.6倍です。罹患数は死亡数とほぼ等しく、膵臓がん罹患者の生存率が低いことと関連しています。危険因子としては、糖尿病、慢性膵炎、肥満、喫煙などがあげられています。(がん情報サービスganjoho.jp より引用)
膵臓がんは症状がなかなか出ないため、症状が出た時には進行していることも少なくありません。当院の消化器内科では、膵臓がんの診断において非常に有効な超音波内視鏡検査を積極的に行っており、消化器外科と消化器内科で連携して、できる限りの早期発見に努めています。また、64列マルチスライスCT やMRI、PET-CTなども用いて適確な進行度診断を行います。進行度を診断した後に、外科的治療(膵頭十二指腸切除術PD、膵体尾部切除術DP)を中心に、化学療法、放射線治療、動注化学療法など集学的治療を行います。治療方針に関しては、消化器外科、消化器内科で充分に検討し、最良の方針を選択していきます。
膵臓がんの手術は、消化器外科医が行う手術の中で、最も難しい手術のうちの一つですが、当センターでは肝胆膵外科名誉指導医を中心とした、経験のある医師が手術にあたっています。また、膵体尾部の腫瘍においては、早期癌を中心に、より低侵襲な腹腔鏡下手術も行っています。
胆石症とは
胆嚢には肝臓で作られる胆汁を貯めておく働きがあります。その胆汁の成分が固まってできたものが胆石です。
胆石ができると食事により胆嚢が収縮した際に痛みを感じるようになることがあります。これのひどい状態が疝痛発作で救急車のお世話になるケースもあります。また、胆汁の流れが悪くなることによりしばしば胆嚢炎を起こします。胆嚢炎になると、腹痛、発熱が出現し、さらに悪化すると黄疸やショック状態にいたることもあります。胆石が原因となって引き起こす胆石性膵炎も時に致命的となることがあります。
小さな胆石だから安心と言うわけではなく、小さな結石でも胆嚢管や総胆管、十二指腸乳頭部で詰まる可能性があります。胆嚢管で詰まると胆嚢炎、総胆管や十二指腸乳頭部で詰まると胆管炎や黄疸の原因になるため、結石が小さくても治療の対象になります。当センターでは消化器内科の協力のもと、内視鏡を用いた胆道造影(ERCP)や採石術、胆道ドレナージ術も迅速に行うことができます。
胆石がなくても膵管胆管合流異常症という病気も胆嚢摘出手術の対象になります。若いうちから原因不明の腹痛を繰り返すことがあり、また、診断が遅れると胆石症だけでなく胆道悪性疾患の原因になると言われています。特に若年者の胆石症、胆嚢炎では注意が必要です。ぜひ一度精査を受けられることをおすすめいたします。確定診断には内視鏡を用いた胆道造影(ERCP)などを行う必要があり、手術を行う際には慎重に準備を進めています。
胆嚢結石症手術
当センターでは豊富な手術経験をもとに腹腔鏡下手術を基本とした手術を行います。腹部に3〜4カ所の小切開を加えて手術を行う多孔式(マルチポート)腹腔鏡手術を行う施設が多いのですが、当センターでは、炎症が軽い患者さんに対しては、臍部1カ所だけに小切開を加えて手術を行う、より低侵襲で傷跡の目立たない単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出手術も積極的に行っています。また、状況に応じて術中胆道造影を行い、遺残結石、膵管胆管合流異常症の有無を精査します。

写真⑤は当センターで行った単孔式腹腔鏡下胆のう摘出術における、術中風景および術後創部の状態です。お臍の傷のみから手術を行います。術後1ヶ月目には、創はほとんど目立なくなります。
初回受診時に必要な検査の多くを行うことが可能なため、お忙しい患者さんには、手術までの受診(再診)回数が1〜2回で済むよう配慮しています。手術当日の朝に入院していただき、手術2日後の午前中に退院となる2泊3日での手術を基本としていますが、患者さんの状態によっては手術翌日に退院となる1泊2日での日帰り手術が可能です。つまり、金曜日に手術を受けていただいた場合には、週末に退院していただき、月曜日からの職場復帰が可能となります。しかし、体力に不安を感じておられる方には、4日前後の入院をお勧めしておりますので、受診時に遠慮なくお伝え下さい。また、吸収糸による真皮縫合を行っているため抜糸する必要はありません。
総胆管結石症手術
総胆管結石は、多くの場合は消化器内科で内視鏡的に治療が可能ですが、様々な理由で内視鏡的な治療ができない場合は、手術が必要になります。開腹手術で行われることも多い手術ですが、当センターでは腹腔鏡下の手術を積極的に行い、少しでも負担の少ない治療を目指しています。
【文責 消化器外科医長 石川 ・ 消化器外科医長 森】